人の見のこしたものを見るようにせよ。

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SAKE SUPREME #1 プレイリストと解説

先日、浅草橋の酒屋 SAKE Street にて、小ぢんまりとした「ジャズと日本酒」のイベントを開催した。

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主催者は自分(言い出しっぺ)、しんご通信さん(ビジュアル&音楽担当)、こーへーさん(酒担当)の3人。
上のカッコいい画像はしんご通信さんが作ってくれたやつ。

結論から言うとイベントはかなり盛り上がった(と思う)。

今回のイベントは新鮮に受け止めてもらえたようで、参加者から「プレイした曲を後で知りたい」というリクエストを頂いた。
また、参加できなかった方からも、Twitterで「興味がある」「どんなペアリングなんだろう」という反応があった。
そこで、Spotifyで当日の曲をプレイリストにして公開した。

open.spotify.com

以下、収録曲の解説、会場の反応などを書いていくので、音源を聴きながら読んで頂けると嬉しいです。

▼オープニング

1 John Coltrane - A Love Supreme, Pt. I – Acknowledgement

ジャズファンなら誰もが知る超名曲にして、イベントタイトルの元ネタ。
「何かが始まりそうな予感」が横溢している。

▼デモンストレーション

いきなり「ジャズと日本酒のペアリング」と言っても「何ぞや?」という人も多いと思ったので、予め4つのペアリングを準備してデモンストレーションをやった。

2 Nujabes - Modal Soul (feat. Uyama Hiroto)

「光栄菊 “SNOW CRYSTAL”」とマッチング。
テーマは「コンテンポラリー」。
選曲はしんご通信さん。
氏曰く「ノスタルジックなメロディーがスノウクリスタルの粉っぽい甘い香りに合うかなと思いました。あと、細かく鳴るシンバルが微発泡感のようにも感じられて良いかなと。」
ペアリングがバッチリだったうえに、会場にNujabesファンが多かったので冒頭からとてもイイ感じに盛り上がった。
そして、Nujabes はオープニング曲のコルトレーン一派から影響を受けているので、ジャズファンがニンマリする流れも最高。

3 Blue Mitchell - I'll Close My Eyes

「鳴海 “純米大吟醸直詰め生 山田錦”」とマッチング。
テーマは「オーセンティック」。
選曲は自分。
鳴海は素直で伸びやかな酒というイメージなので王道のモダンジャズ
酒蔵がある房総半島の風土も含めて「陽性」だと感じたので、テンポよく明るい雰囲気のこの曲を選んだ。
選曲の際に、同時代のトランぺッターたち(ケニー・ドーハムリー・モーガンドナルド・バードなど)と聴き比べて絞り込むのがむちゃくちゃ楽しかった。
会場の反応は「普通に合うよね~」という感じで、堅実な二番バッターの役割は果たしたかと。

4 Butcher Brown - Tidal Wave

「“シン・ツチダ”」とのマッチング
テーマは「ネオ・クラシック」。
これも選曲は自分。
日本酒ファンの間で大注目の土田酒造ということで、選曲に力が入った(そして悩んだ)。
ここの藏は「現代の設備で伝統製法の酒を造る」というスタンス、シン・ツチダはそのフラッグシップ酒だということを踏まえて考えた。
「現代の設備」から若手ミュージシャンによる2020年の新譜、「伝統製法」から生音(アコースティック)中心の音づくりという条件を設定。
「生酛づくり」のなかで微生物が静かにうごめく様子をイメージしつつ曲を漁っていたら、ロンドンの若手ミュージシャンによるこの曲がピンと来た。
アルバムのジャケットに麹菌っぽい物体が描かれていることも密かなポイント。
この頃になると自分が楽しんではしゃいでいたので、会場の反応は良く覚えていない。

5 Pharoah Sanders - You've Got To Have Freedom

「舞美人 “山廃純米 無濾過生原酒 SanQ”」とペアリング。
テーマは「アバンギャルド」。
選曲はしんご通信さん、自分の共同。
この酒の持ち味は、何と言っても強烈な酸味。単純な酸味ではなく、なんかバイブレーションというか、波と言うか、そういう感覚がある。
そのイメージをファラオ・サンダースの咆哮するようなサックスに重ねた。
加えて、酸味を支える甘味は、ファラオの音楽性の根底にある人類愛や世界平和に通じるものがあると解釈。
このペアリングは、ジャズに詳しくない人を中心にウケていたように思う。

▼リクエスト&パーティー

ここからは自由に音楽を聴いたり、会話をしたり、飲んだり、食べたり。
以下、プレイした主な音源(+α)。

6 Katalyst - BBB

これは「シン・ツチダ」の選曲の際に最後まで悩んだやつ。
飲んだことがある人は「4 Butcher Brown - Tidal Wave」と聴き比べてください。

7 Jorge López Ruiz - Rogne Buenos Aires

会場からのリクエスト。
アルゼンチンの格好いいビッグバンド。
イメージは「七寳 粕取りみりん」。
みりんの味の要素の多さ、粕取焼酎由来の癖と音圧の強さが合う感じがして興味深かった!

8 Alfa Mist - Retainer

会場からのリクエスト。
ロンドンの若手ミュージシャンの旗手で、前出の Butcher Brown と同じカテゴリー。
同じ方が持参した「みむろ杉 CRAFT SAKE FROM BROOKLYN」のモダン&ジューシーな味わいと素晴らしいマッチング!
現代の若い造り手の日本酒と、現在活況を呈しているサウスロンドンのジャズシーンは相性が良いのかも?

9 José James - Promise in Love

自分が不在の時にかかっていた曲。
特にどの酒とペアリングという訳ではなかったが、会場がまったりリラックスした雰囲気にピッタリだった。

10 Art Blakey & The Jazz Messengers - A Night In Tunisia

黒松剣菱のお燗で会場のボルテージが最高潮に達していた時にプレイした。
何を選んでも剣菱には敵わないと思ったので、ここはシンプルに自分が好きなものを。
個人的に、ドラマーの Art Blakey は「ジャズ界の剣菱」と言って良い偉大な人物だと思っている。

11 Eric Dolphy - Out There

参加者にクラシックのチェロが好きという人がいて、「チェロが入っているジャズもあるよ」ということでプレイした。
というより、今回のイベントで一回は Eric Dolphy をプレイしたいと密かに思っていた(願望がかなって嬉しい)。
Dolphy は敬愛するミュージシャンの一人で、彼が残した”When music is over, it’s gone in the air. You can never capture it again.” (音楽は終わったら消えてなくなってしまい、二度と取り戻すことはできない)という言葉はジャズの精神を体現した名言。

Isao Suzuki with String Band - Nica's Dream(プレイリスト非収録)

ベースが好きだという参加者からのリクエストに応えて、しんご通信さんがプレイした曲。
初めて聴いたけど、なんやこれ、問答無用で格好いいぞ。。。
鈴木勲さんは御年80代の超ベテランだが、いまも現役で若手のDJと演奏したりしているらしい。
皆で「こんなふうに年を取りたいなー」とか話しながら耳を傾けた。
残念ながら Spotify の音源が無かったので、youtube でどうぞ。
youtu.be

12 Rahsaan Roland Kirk - Blacknuss

参加者が持ち込んでくれた寺田本家「醍醐のしずく」を飲みながら、何人かで「これに合うジャズは無いよな~」と話していたが、その場では妙案が出なかった。
そして、帰りの電車でひらめいた。
盲目の偉大なジャズリード奏者、というよりブラック・ミュージックの怪人 Roland Kirk なら行けるんじゃね?
テーマは「プリミティブ」。

13 Jack McDuff - Oblighetto

もう一つ、今回は熟成した生酒が一本も無かった(自分で持っていけば良かった…)。
それが心残りだったので、帰宅してから自分なりに「生熟ジャズ」を考えてみたら、60年代のソウル・ジャズに行き当たった。
テーマは「コテコテでんがな」。

▼クロージング

14 Steve Reich - Electric Counterpoint: I. Fast

最後に、クールダウンを意図してミニマル・ミュージック(現代音楽)をかけた。
ジャズギタリストのパット・メセニーが参加しているのでアリかなと。
マニアックな選曲だったが、一部の参加者にウケて良かった。

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参加者から「またやってよ!」という嬉しい声をたくさん頂いたので、ぜひ第2回をやりたと思う。
冬にやるなら「ジャズ×燗酒」がエエかな。。。

とにもかくにも、関係者と参加者の皆様、自分の拙い段取り&進行をサポートして頂きありがとうございました!
また遊びましょう!

Special Thanks to Shingo, Kohei, Saki & SAKE Street
sake.st

<了>